リップクリーム
別れた恋人と会った。
元カノと、共通の友人と私の3人でドライブをしたのだ。
会った瞬間、私は元カノに抱きついた。
ごめんなさい、ごめんなさいと。道の真ん中でなにをしているのかという話かもしれないが、彼女のことをきつく抱きしめ、ひたすらに謝った。
元カノは、優しかった。
私の背中を撫で、大丈夫だと。あんなひどい別れ方を私はしたのに、許してかれるみたいに、優しく、抱きしめ返してくれた。
そしてドライブへ。車内の会話は終始和やか。共通の友人がいたこともあるのだろう。特に踏み行った話はしなかった。
そんな中、私がお手洗いに寄りたいと近くのドラッグストアへと寄ってもらった。
向かうは化粧品が陳列されている棚。
品薄状態のリップを探し、目当ての場所まで向かう。
するとそこに、私の目当てのリップはあったのだ。
「どうしよう〜これなかなか見ないやつなんだよね〜悩む!」
そんなことを話したように思う。その時に元カノは
「蛍、お手洗いに行きたかったんでしょう? 行っておいで」
と私をその場から去らせた。
その後、各々が飲み物を調達し、車内へと戻る途中。
元カノは私にリップをプレゼントしてくれた。私が欲しいと言っていたものだ。
「ちょうどポイントがあったから」
そう彼女は言っていた。私にはその好意が嬉しくて、そして少しだけ、申し訳なかった。
そのリップクリームというのは、別の色を普段私が言及する彼女。つまり元不倫相手から贈られていた。
大人っぽい、背伸びしたダークレッドのリップ。
今日元カノから貰ったのは、肌馴染みの良い、等身大のオレンジのリップ。
プレゼントをしてくれたということは、私のことを憎からず思ってくれているのだろう。そうだと良い、と願ってしまうのは私の我儘でしかないのに。
二本のリップ。それは私にとって大きな意味を持つ。
甲乙なんてつけられるはずない。どちらも、大切なもの。
私が、そのリップを見てジクジク胸を痛ませるのは見当違いだろう。それなのに。
メイクポーチの中に仕舞われている2本のリップ。それは確かに私の心を揺らすのだ。